2025年6月27日
「いつかは雄大な北海道で暮らしたい」。
雪景色の美しさ、澄んだ空気、そしてどこまでも続く地平線──そんな憧れを抱く人は年々増えています。
ところが検索には「北海道移住 やめとけ」という警告が並び、実際に後悔の声も少なくありません。
本記事では、道内生活の経験談をもとに“北の大地”のリアルを深掘りします。
ご一読いただくことで、「自分は本当に北海道向きなのか」を見極める視座が手に入るはずです。
北海道の冬は想像以上に長く、厳しいものです。
道央の札幌でさえ年間降雪量は5〜6メートル。
内陸の帯広や旭川では一晩で車が埋まるほどのドカ雪が珍しくなく、朝6時から出勤前までの1時間を除雪に充てる生活が続くこともあります。
灯油ストーブは生命線となり、単身でも月3万円、ファミリーで月5万円を超えることも。
高断熱住宅は暖かい反面、メンテナンス費や固定資産税がかさみ「家賃が安いからトータルで得」という甘い見込みは崩れやすいのが実情です。
JR北海道のローカル線は減便・廃止が進み、2025年現在の営業キロ数はピーク時の7割。
道東・道北では列車が1日数本という区間も珍しくなく、都市間バスも吹雪で運休が相次ぎます。
結果として「一家に二台」が生活の前提。
車両購入費に加え、スタッドレスタイヤ(1セット8〜12万円)やエンジンブロックヒーターの電気代など、移動コストが想定以上に膨らみます。
札幌・千歳圏を除けば雇用は観光と一次産業が中心で、道内平均年収(約430万円)は東京都より1割以上低い水準です。
リモートワークで補おうとしても、郊外では光回線の選択肢が限られ、降雪による通信品質低下が発生することも。
観光地では「夏は月収25万円、冬は月収12万円」という極端な季節変動が起こりやすく、安定収入の複線化が不可欠です。
自治体ごとの細分化されたゴミ分別、指定袋の高価格、冬季に高騰する食料品―—。
町内会の排雪費用や氷割り作業への参加も必須です。
都会の「隣は何をする人ぞ」という距離感に慣れた移住者は、密な近所付き合いに戸惑うケースが少なくありません。
上記の壁を聞いて「やっぱり無理かも」と感じた人もいるでしょう。
ところが実際には、移住して心底満足している人も確かに存在します。
彼らにはいくつかの明確な共通項があり、それを理解することが成功の近道となります。
春の雪解けで道路が川のように流れても、夏の真夜中でも薄明るい白夜に戸惑っても、「これぞ北海道!」とワクワクできる感性は大きな武器です。
雪虫が大群で飛び交う秋、マイナス20℃の夜に光るダイヤモンドダスト──こうした非日常を“年中行事”として味わえる人は、長い冬すらご褒美に変えられます。
札幌圏の家賃相場は東京23区より3割以上安いのに対し、暖房費は年間15〜20万円上乗せという現実があります。
車の維持費を合わせた年間固定費をシミュレーションし、「月単位の赤字は年間黒字で回収できる」と割り切れる冷静な計算力が求められます。
金銭感覚のアップデートが遅れると、「出費が想定外に膨らんだ」という後悔がやって来るでしょう。
排雪ボランティアや祭りの手伝いを通じて顔が広がれば、野菜のお裾分けや除雪機の共同利用に誘われるなど、思わぬメリットが生まれます。
頼り、頼られる関係を築くことで、孤立とは無縁の温かなネットワークが生活の保険となります。
昼間は漁業補助、夜はオンライン講師──そんな二刀流ワーカーや、夏はリゾバで稼ぎ冬はスキル学習に集中するポートフォリオワーカーが増えています。
収入源を一本に絞らない“仕事の複線化”が、経済的・精神的な安定を支えます。
人口減少と慢性的な人手不足という課題の裏側には、ITと現場知識を掛け合わせた革新的チャンスが潜んでいます。
具体的な社名は伏せつつ、次の三つの潮流に注目してみましょう。
道東にある金属加工メーカーがクラウドERPを導入したことで、受注から出荷までのリードタイムを3割短縮。
システム構築を主導したのは道外から移住した30代のITコンサルタントでした。
普段はリモートで業務を行い、月に一度現場へ足を運ぶだけの働き方でも、地域に大きな生産性向上をもたらしています。
こうした“部分リモート×現場密着”のハイブリッドワークは、移住希望者にとって大きなヒントとなるでしょう。
帯広エリア発の農業系IoTスタートアップでは、ドローンによる播種や施肥サービスを拡大中。
業務データを解析するアナリスト部門はフルリモート体制で、元漁師や主婦など多様なバックグラウンドを持つ人たちがPythonを習得し、“在宅アナリスト”として活躍しています。
自然とテクノロジーをつなぐ橋渡し役は、北海道ならではのユニークなキャリアパスと言えます。
オホーツク海産のホタテや乳製品を定期便で届ける“食のサブスク”ECは、首都圏を中心に急成長を遂げています。
商品企画やSNS運用、顧客サポートといったマーケティング関連業務を、札幌や旭川在住の移住者がリモートで担当。
都心並みの報酬水準を確保しながら、自然豊かな場所で暮らす──そんなライフスタイルを実現する先行事例となっています。
データだけでは伝わらない“生活の体温”を知るには、先人の経験談がいちばんの指針になります。
ここではバックグラウンドの異なる二人の筆者に、実際に暮らして感じたリアルを語ってもらいました。
札幌郊外に新築戸建てを建てて3年になります。
都心で支払っていた家賃16 万円がなくなり、冬の灯油代や車の維持費を加味しても年間の収支はおおよそ50 万円の黒字です。
除雪は筋トレと割り切り、子どもと雪だるまを作る時間は私にとって人生の宝物だと感じています。
満天の星空の下でコーヒーをすする深夜のリセットタイムは、東京では味わえなかったぜいたくです。
函館で居酒屋を開業して5年になります。
観光ピークの7〜9月は客単価5,000円でも連日満席になりますが、冬の閑散期は売上が半減し資金繰りが苦しくなりました。
そこで地元の漁師から未利用魚を仕入れ、真冬限定の海鮮鍋を開発したところ、SNSで話題になりました。
雪道をものともせず来店してくださる常連のお客さまから「ここの鍋が冬の楽しみです」と言われた瞬間、寒さが温かさに変わるのを感じました。
「北海道移住 やめとけ」という警鐘は、厳しい自然と生活コスト、そして地域コミュニティとの距離感に対して“準備不足のまま飛び込むな”というメッセージです。
長い冬、限られた公共交通、限定的な求人――これらは確かに高い壁ですが、対策を講じれば乗り越えられる壁でもあります。
まずは真冬を含む1か月以上の長期滞在で自分の適性を試し、年間固定費をシミュレーションしてプランBを用意する。
ローカルコミュニティに参加し、顔が利く状態を作る。
そして収入源を複線化して経済的余裕を確保する。
こうした準備が、理想と現実のギャップを最小化してくれます。
一方で地方DXやサブスクECの成長は、オンラインスキルを持つ移住者に大きなチャンスを開いています。
寒さを“耐えるもの”ではなく“活かすもの”と捉え、数字に裏付けられた計画と地域を敬う姿勢を携えれば、雄大な北の大地は必ずや温かなホームになってくれるでしょう。
佐保 健太郎
「住み込み」に特化した求人サイトのライフジョブを運営。 リゾートバイトや出稼ぎ求人、寮付きの求人をご紹介しています。 学生時代からリゾートバイトや期間工の仕事を複数経験。 出身は兵庫県、特技はお菓子作り。